富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【総論・神経組織】神経伝達物質食品

最近GABAを使用し睡眠の質向上を謳う商品が多いですが、GABAは血液脳関門を通過しないと聞いたことがあるのですが実際に効果はあるのでしょうか。

という質問がありました。

神経伝達物質が食物に含まれていることはよくあります。GABAはバナナなどに含まれていますし、グルタミン酸は主要な旨味成分で様々な食物に含まれています。グリシンもしかり。むしろ、このようなありふれた物質(グルタミン酸グリシンはタンパク質を構成する20種類のアミノ酸に含まれていますね)をシグナル分子として使用するようになった、という経緯があったのでしょう(ATPも神経伝達物質として使われています)。ありふれた物質をシグナル分子として使うのはコストがかからない反面、そこら中にある物質によって神経系が誤作動してしまう危険性があります。このため神経系はこのような潜在的なシグナル物質から遮断されています。これが血液脳関門です。血中には様々な栄養素が運ばれていて、その中には神経系に作用するものも多々存在するので、神経細胞は血液に直接さらされていないのです。といっても神経組織中に毛細血管はたくさん分布しています。血液脳関門というのは毛細血管の壁(内皮細胞)の物質選択性によってつくられているのです。
結論:GABAを含むチョコレートを食べても、グルタミン酸を豊富に含む中華料理をたべても脳は誤作動しません。
余談:昔、味の素(グルタミン酸ナトリウム)が発売されたとき、頭が良くなる調味料と宣伝されました。今も昔も変わらないですね。
余談2:脳の毛細血管全てに血液脳関門が発達しているわけではありません。脳室周囲には血液脳関門を欠く脳領域がいくつかあり、これらの脳領域は血中の化学環境をモニターしてると考えられています。…
余談3:消化管上皮にGABAを含有する細胞が含まれていることが知られています。また、膵臓内分泌部にもGABAを産生する細胞が存在しています。このことから、食べ物に含まれているGABAが消化管に作用することはありそうな話で、GABA含有食品が消化管を通じてどのようにかして睡眠の質を高める可能性は残されています。