富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【総論・神経組織】なぜ同じ伝達物質にイオンチャネル型と代謝型の受容体があるのか

グルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質が、代謝型受容体とイオンチャネル型受容体の両方をもつのはなぜですか?

という質問がありました。

まず基本として、脳内のグルタミン酸やGABAの神経伝達にメインにかかわるのはイオンチャネル型受容体であることを覚えておいてください。代謝型はサブです。これは、イオンチャネル型の伝達がミリ秒の素早い応答を引き起こすためです。一方、代謝型は数百ミリ秒から数秒にわたるゆっくりと持続した応答を引き起こすことから、神経伝達の効率を変化させる機能があります。
代謝型受容体の詳細な機能については様々な研究がなされています。以下に例を示します。
・GABAの代謝型受容体であるGABA B 受容体はグルタミン酸作動性神経終末に分布していて(シナプス前部に存在する)、活動電位に伴うグルタミン酸の放出量を減らす、シナプス前抑制を起こすことが知られています。
代謝グルタミン酸受容体mGluRの2と3はシナプス前部に分布して活動電位に伴うグルタミン酸の放出量を減らす、シナプス前抑制を起こします。これは興奮性伝達物質の過剰な放出を抑える、負のフィードバック回路を形成しています。
代謝グルタミン酸受容体mGluRはシナプス後部にも存在していて、mGluRの活性化によってシナプス可塑性(シナプスの伝達効率が上がったり下がったりする、記憶・学習を可能にする分子機構)が引き起こされます。重要なのはシナプス伝達のメインであるアクティブゾーン(電子顕微鏡写真で濃い色をしている場所)にはイオンチャネルグルタミン酸受容体が集積していて、その縁の部分にmGluRが分布していることです。このため、シナプス前部の活性が低くグルタミン酸放出量が少ないときはmGluRが活性化されず、シナプス前部が強く興奮した時にのみグルタミン酸がアクティブゾーン周縁部まで拡散してmGluRが活性化し、シナプス可塑性が引き起こされるのです。強い、印象的な出来事は記憶されやすく、弱い、日常的な出来事は記憶に残りにくいという現象を説明できそうではないですか?
これ以外にも代謝型受容体には様々な働きがあり、まだその全貌は明らかになっていません。代謝型受容体は細胞内の様々なシグナル伝達経路に作用できるので、とても多様な反応を作り出すことができるからです。