富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

学会発表

3月は学会発表が2つもありました。

1つは学術変革領域・深奥質感の領域会議で、姫路で行われました。学部4年の盛田さんが学会発表デビューです。盛田さんはコミュニケーション音声が引き起こす集団脳活動(auditory brainstem response)の特徴についてまとめました。

右が盛田さんです。しっかり説明しています。

 

もうひとつは日本解剖学会全国学術集会で、那覇で開催されました。沖縄は気候が良くて飲み食いが安くて素晴らしい!と言っても遊んでばかりいたわけではなく、伊藤はポスター発表とシンポジウム演者をこなしてきました。

こちらは酒3杯、刺し身、料理1品で1000円、という驚異的なセンベロ酒場での研究室同窓会(京都大学・自然人類学研究室)の写真です。

 

【各論・感覚器系(1)】なぜ錐体の外節の太さが網膜の場所によって違うのか

網膜の錐体細胞についてひとつ質問があります。
なぜ、中心窩では錐体細胞が細くなり、中心窩から離れると太くなるのでしょうか。

という質問がありました。

まず、光学的な前提として、眼球のような単一レンズでできた光学系は、レンズの正面から入射する光に対しては正しく結像するが、そうでない方向、特により周縁からの光に対しては完全には結像しないため、像が明瞭でなく、暗くなることが知られています(収差)。このため、網膜に投影される像の時点で中心窩が最も明瞭かつ明るいことになります。

次に視細胞の形態についてです。視細胞は外節と内節に分かれ、外節が太かったり細かったりする部分で、ここには光の方向に直交して平たい膜構造が無数に存在しています。この膜に視物質(杆体ではロドプシン、錐体ではアイオドブシン)が埋め込まれています。光が外節を通り抜けるときに視物質と反応して視細胞の膜電位変化を引き起こす一連の反応が起こるのです。

ここから、錐体の外節の太さの網膜の位置による違いを説明できます。中心窩では光量が多いので、細い外節でも十分に光感受性反応が起こるのに対し、網膜周縁部では外節の太さが太くなることで光に当たる視物質の量を増やし、光に対する感受性を高めているのだと考えられます。

では、なぜ杆体ではこのような太さの違いが見られないのか、ということですが、杆体のほうがそもそも光に対する感受性が高く、このような「工夫」が必要ないからなのではないかと思われます。

外節は長さ方向に膜構造が積み重なっていることから、外節の長さも光感受性に影響を与えると考えられます。この長さは錐体、杆体ともに中心窩近辺で最も長く、網膜最周縁部で急に短くなります。解釈としては網膜最周縁部ではもう高い光感受性を「あきらめている」といったところでしょうか。

長谷一磨助教が着任しました!

本研究室に新しいメンバーが加わりました!

長谷一磨さんはこの1月より、助教として着任しました。これまで、コウモリを題材として音声行動や聴覚生理学の研究をやってきました。研究室の研究に新たな風を吹き込んでくれることを期待しています!

加えて、12月より工学部の生命工学コースの3年生を2名仮配属で受け入れています。このお二人については後日紹介します。

深奥質感 第一回生体計測分科会 を開催しました

 去る12/12, 13に学術変革領域研究(A) 深奥質感 の第一回生体計測分科会を本学で開催しました。

 感覚系を専門とする神経科学者が集まって実験技術などに関して議論しました。プログラムがスカスカなのではないか、と心配していたのですが、蓋を開けてみるとどのセッションも議論が盛況でやや押し気味なほどでした。

 いろいろ頂いたご意見をもとに、研究系をブラッシュアップしていこうと思います。

 

脳科学研究交流会を行いました

2023年11/7に富山大学大学院生命融合科学教育部主催のシンポジウム、「脳科学研究交流会」を行いました。医、薬、理、工、4学部の教員29人、研究室所属の学生27人に加え、大学内外の方々33名、計70名が参加し、大盛況でした。

井ノ口馨 卓越教授による基調講演

D2 Saqibさんのショートトーク

M2 宮島さんのポスター発表

最人気ポスター賞は解剖学講座D4のNguyen Thi Van Trangさんに決まりました!賞品は井ノ口先生の紫綬褒章受賞時に作成した研究目録(サイン付き)でした。私が生命融合教育部長の代わりに授与しています*1


単発でなく、定期的に開催していきたいと思いますので、乞うご期待。

 

*1:生命融合教育部長の高雄先生は左端に写っています

【総論・神経組織】 アセチルコリンの「矛盾?」する作用

アセチルコリンですが、筋肉に対しては筋収縮をさせ、細動脈を取り巻く筋肉に対しては筋弛緩をさせるということなのでしょうか?どこか矛盾を感じました。

という質問がありました。

同じ神経伝達物質が細胞ごとに異なる作用を示すことはよくあります。これは細胞によって異なる受容体が発現しているからです。
骨格筋に発現しているアセチルコリン受容体はニコチン型受容体で、これはイオンチャネル型受容体で陽イオンを通します。したがって受容体の活性化によって速やかに骨格筋は脱分極します。
平滑筋に発現しているアセチルコリン受容体はムスカリン型受容体で、これは代謝型受容体です。ムスカリン型受容体は5種類あって、細胞によって違う種類が発現しています。心臓血管系ではアセチルコリンカリウムイオンチャネルを開く働きを持っていて、その結果細胞は過分極し、弛緩します。一方、消化管や気管の平滑筋ではアセチルコリンは細胞内カルシウムイオン濃度を高め、細胞は収縮します。(実際はもっと複雑なのですが、詳細は生理学で学習します)

【総論・神経組織】骨格筋に分布する神経線維について

α運動ニューロンとコリン作動性交感神経節後線維の2種類が分布することの意義ですが、前者は筋収縮を担っていて、後者は筋肉に対する栄養を担っているという理解で大丈夫でしょうか?

という質問がありました。

α運動ニューロンは筋収縮を司り、コリン作動性交感神経節後繊維は細動脈を広げることで骨格筋への血流を増やし、酸素や栄養の供給を増やす働きがあります。
なお、骨格筋には他にも筋紡錘や筋膜に分布する感覚線維も存在しますが、これらはグルタミン酸作動性なので実習標本では観察できません。