富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【総論・神経組織】神経細胞は生後増えるのか?

よく細胞は幹細胞があって前駆細胞があって最終分化した細胞があって、という感じですが、神経細胞には幹細胞や前駆細胞のような新しい細胞を生産するものはあるのでしょうか?これがないと神経細胞ミクログリアによってなくなってしまうような気がするのですが。

という質問がありました。

神経細胞は分化した細胞でそれ以上分裂しません。
神経細胞を生み出す能力を持った幹細胞のことを神経幹細胞といいます。20年前まで、哺乳類の大人の脳には神経幹細胞は存在せず、神経細胞は死ぬ一方である、と考えられていましたが、今では、大人の脳の一部に神経幹細胞が残っていて、新たに神経細胞が生み出されていることが証明されています。その場所とは側脳室の脳室下帯というところで、ここで海馬と嗅球という領域の顆粒細胞という種類のニューロンが生み出されています。海馬は新たな記憶の形成に不可欠な脳部位で、海馬の顆粒細胞の神経新生が記憶形成に重要な役割を持つことが知られています。さらに、この神経新生はうつ病では低下し、適度な運動で増加することが動物実験で示されています。(なお、他の動物の系統では神経新生が別の部位でも起こります。例えば鳴禽類(鳴く小鳥です)の歌の学習と神経新生が関連付けられています)
ただ、逆に言うと脳の殆どの部位で神経新生は起こらない、といえます。神経細胞が脳の機能を維持するのに必要な数を割り込むと困ったことになります。パーキンソン病アルツハイマー認知症はそのような神経細胞の減少によって起こる病気です。