富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【総論・筋組織】運動負荷と筋の成長

運動をするときに、早歩き程度だと脂肪が燃えるが走ると筋肉が分解されると言われました。 この違いは何から生まれるのでしょうか。教えてください。

という質問がありました。

この内容にはやや不正確なところがあります。まず前半部分「早歩き程度だと脂肪が燃える」とは、有酸素運動のことを示していると考えられます。有酸素運動では脂肪酸クエン酸回路を使って分解し、ATPを大量に産生します。血中の脂肪酸が枯渇すると脂肪細胞の脂肪が分解されて脂肪酸が供給されるので、脂肪が減るわけです。このため、「脂肪を燃やす」ためには一定程度の負荷(心拍120回/分程度)の運動を1回30分以上行う必要があるとされています。
後半部分「走ると筋肉が分解される」というのは怪しげな文言ですが、おそらく激しい無酸素運動による筋の損傷について述べているのではないかと思われます。無酸素運動は筋に蓄積されているグリコーゲンや糖の解糖系による分解で行う素早い運動で、短距離走とか重量挙げなどの短時間で終わる運動のことです。この際、負荷が大きいと筋細胞が損傷し、損傷部位にに集まってきた白血球が放出する炎症物質が痛覚神経を刺激し痛みが生じます。これが筋肉痛です。このような軽度の筋損傷では周りにいる未分化な筋外套細胞が増殖し筋線維に融合したり、新たな筋線維を作ることによって筋肉は前より少し太くなります。これが筋トレの原理です。したがって適度な筋肉痛を生じる程度の運動ではむしろ筋肉は成長すると考えられます。
なお、筋ジストロフィーという進行性の筋が萎縮する病気では、筋線維が死にやすくなっていて、筋外套細胞による再生が追いつかずに筋肉が萎縮していきます。このような患者では、激しい運動はより筋線維が死滅することに繋がるので禁忌です。