富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【各論・感覚器系(1)】なぜ錐体の外節の太さが網膜の場所によって違うのか

網膜の錐体細胞についてひとつ質問があります。
なぜ、中心窩では錐体細胞が細くなり、中心窩から離れると太くなるのでしょうか。

という質問がありました。

まず、光学的な前提として、眼球のような単一レンズでできた光学系は、レンズの正面から入射する光に対しては正しく結像するが、そうでない方向、特により周縁からの光に対しては完全には結像しないため、像が明瞭でなく、暗くなることが知られています(収差)。このため、網膜に投影される像の時点で中心窩が最も明瞭かつ明るいことになります。

次に視細胞の形態についてです。視細胞は外節と内節に分かれ、外節が太かったり細かったりする部分で、ここには光の方向に直交して平たい膜構造が無数に存在しています。この膜に視物質(杆体ではロドプシン、錐体ではアイオドブシン)が埋め込まれています。光が外節を通り抜けるときに視物質と反応して視細胞の膜電位変化を引き起こす一連の反応が起こるのです。

ここから、錐体の外節の太さの網膜の位置による違いを説明できます。中心窩では光量が多いので、細い外節でも十分に光感受性反応が起こるのに対し、網膜周縁部では外節の太さが太くなることで光に当たる視物質の量を増やし、光に対する感受性を高めているのだと考えられます。

では、なぜ杆体ではこのような太さの違いが見られないのか、ということですが、杆体のほうがそもそも光に対する感受性が高く、このような「工夫」が必要ないからなのではないかと思われます。

外節は長さ方向に膜構造が積み重なっていることから、外節の長さも光感受性に影響を与えると考えられます。この長さは錐体、杆体ともに中心窩近辺で最も長く、網膜最周縁部で急に短くなります。解釈としては網膜最周縁部ではもう高い光感受性を「あきらめている」といったところでしょうか。