富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【各論・感覚器系(2)】加齢性難聴の特徴

年をとって耳が聞こえにくくなる時は、高い音から聞こえにくくなるということを聞いたことがあるのですが、なぜですか。

という質問がありました。

おっしゃるとおり、加齢性難聴は高周波数の音から起こります。40歳くらいの人は15-20kHzの音を聞き取ることができますが(私も大学生のときはできました)、40歳位になるとこのあたりの音を聞き取るのは困難になってきます。高齢者ではもっと低いあたりも聞こえなくなってきて、1-4kHzという、中音域のあたりまで聞こえなくなってくると日常の聞き取りが困難になってきます。
この難聴は主に末梢性のもので、蝸牛の高周波数領域の有毛細胞が死滅することによって起こります。つまり、有毛細胞は部位によって死にやすさが違うのですが、これは蝸牛の構造から説明できます。
蝸牛の基底膜はアブミ骨側が高周波、頂部が低周波となっていて、アブミ骨から入ってきた、基底膜を進行する波の振幅は周波数に応じた部位で最大になり、そこから先(低い周波数の部位)で急速に減衰します。
つまり、アブミ骨側の基底膜は高い音でも低い音でもある程度振動するのに対し、頂部の基底膜は低い音が来た時しか振動しないわけで、アブミ骨側の有毛細胞は頂部の有毛細胞よりも常に刺激にさらされていてダメージを受けやすい状況にあります。これが高周波数領域の有毛細胞が先に死滅する主要因であろうと考えられます。