富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【総論・神経組織】シナプス電位が減衰する理由

EPSPやIPSPはシナプスから離れるにつれて減衰するとありましたが、なぜでしょうか?

という質問がありました。

細胞膜には開きっぱなしのイオンチャネル(漏洩チャネル)があり抵抗として働き、また脂質二重層コンデンサーとして働くので、細胞膜内外で抵抗とコンデンサーが並列に配置されたRC回路(物理学で習いましたか?)を形成しているため、ある場所で発生したシナプス電位は時間とともに減衰します。
では離れたところではどうなっているのか、というと、細胞膜のいたるところでこのRC回路が並んでいるわけです。樹状突起をホースのようなものであると考えると、このホースは壁に柔軟性があって圧変化を吸収し(=コンデンサー)、しかも穴だらけ(漏洩チャネル=抵抗)なのです。ホースに一時的に水流を加える(=シナプス電位)とホースに脈流が生じますが、その勢いは距離とともに衰えることが容易に想像されます。

【総論・神経組織】なぜ同じ伝達物質にイオンチャネル型と代謝型の受容体があるのか

グルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質が、代謝型受容体とイオンチャネル型受容体の両方をもつのはなぜですか?

という質問がありました。

まず基本として、脳内のグルタミン酸やGABAの神経伝達にメインにかかわるのはイオンチャネル型受容体であることを覚えておいてください。代謝型はサブです。これは、イオンチャネル型の伝達がミリ秒の素早い応答を引き起こすためです。一方、代謝型は数百ミリ秒から数秒にわたるゆっくりと持続した応答を引き起こすことから、神経伝達の効率を変化させる機能があります。
代謝型受容体の詳細な機能については様々な研究がなされています。以下に例を示します。
・GABAの代謝型受容体であるGABA B 受容体はグルタミン酸作動性神経終末に分布していて(シナプス前部に存在する)、活動電位に伴うグルタミン酸の放出量を減らす、シナプス前抑制を起こすことが知られています。
代謝グルタミン酸受容体mGluRの2と3はシナプス前部に分布して活動電位に伴うグルタミン酸の放出量を減らす、シナプス前抑制を起こします。これは興奮性伝達物質の過剰な放出を抑える、負のフィードバック回路を形成しています。
代謝グルタミン酸受容体mGluRはシナプス後部にも存在していて、mGluRの活性化によってシナプス可塑性(シナプスの伝達効率が上がったり下がったりする、記憶・学習を可能にする分子機構)が引き起こされます。重要なのはシナプス伝達のメインであるアクティブゾーン(電子顕微鏡写真で濃い色をしている場所)にはイオンチャネルグルタミン酸受容体が集積していて、その縁の部分にmGluRが分布していることです。このため、シナプス前部の活性が低くグルタミン酸放出量が少ないときはmGluRが活性化されず、シナプス前部が強く興奮した時にのみグルタミン酸がアクティブゾーン周縁部まで拡散してmGluRが活性化し、シナプス可塑性が引き起こされるのです。強い、印象的な出来事は記憶されやすく、弱い、日常的な出来事は記憶に残りにくいという現象を説明できそうではないですか?
これ以外にも代謝型受容体には様々な働きがあり、まだその全貌は明らかになっていません。代謝型受容体は細胞内の様々なシグナル伝達経路に作用できるので、とても多様な反応を作り出すことができるからです。

【総論・神経組織】自律神経細胞の形

自律神経節など遠心性のものは節前、節後ともに多極性細胞と考えて良いのでしょうか。

という質問がありました。

その理解で正しいです。第1回の実習で交感神経節を観察しました。細胞体が丸いので一見樹状突起を有さないように見えますが、細胞に色素を注入すると細長い樹状突起が数本生えているのが確認されます。このように、神経細胞のほとんどが多極性細胞とみなすことができます。
なお、マウスのような小動物の副交感性の節後ニューロン樹状突起を欠くことがあるようです。交感神経節と比べて副交感神経節は局所神経回路が発達しておらず、細胞体への入力のみで十分な情報処理が行えるようです。

【総論・神経組織】骨格筋支配線維と血管拡張線維の違い

骨格筋支配線維と血管拡張線維が同じアセチルコリンを使うのなら、片方だけで十分ではないのか?

という質問がありました。

骨格筋を支配する体性運動線維と、血管を支配する内臓運動線維は活動パターンが違うのがその理由です。体性運動線維は筋肉を収縮させるタイミングで激しく発火し、それに応じて筋線維も発火して収縮します。一方、内臓運動線維はゆっくりとした活動パターンを示し、血流の増減も緩やかです。(なぜそのような違いをもたせているか、イメージできますか?)

参考文献としては生理学の教科書(標準生理学など)が良いと思います。

【総論・神経組織】ノルアドレナリンの役割

なぜノルアドレナリンを使って血管を拡張させないのか?

という質問がありました。

実は、骨格筋の血管にはノルアドレナリン作動性の血管収縮線維も分布しています。血管収縮線維と拡張線維は異なった活動性を示しており、両者の共同作用によって末梢血流量を微細に調節しているのです。
また、これに関して、「ノルアドレナリン作動性の血管"拡張"線維は存在しているのでしょうか?それとも拡張にかんしてはコリン作動性の線維のみなのでしょうか?」という追加の質問がありました。β2受容体は確かに一部の血管平滑筋を弛緩させますが、血管平滑筋を収縮させるα1受容体の働きのほうが強いので、ノルアドレナリン放出神経の作用は血管収縮となります。なお、ヒトでは血管拡張交感神経線維はアセチルコリン作動性ではないといわれています。このあたりの研究は進んでいないようです。
アセチルコリンノルアドレナリンも含まない(NANC)自律神経節後線維というのは実はそれなりにあります。ネズミでは一酸化窒素作動性神経というものがその一例です。ヒトの血管拡張交感神経線維が一酸化窒素作動性かは同定されていないと思いますが、一酸化窒素作動性神経である可能性は大いにあると考えます。

【総論・神経組織】アセチルコリンのはたらき

どうやってアセチルコリンが血管を拡張するのか?

という質問がありました。

ムスカリン受容体M3は平滑筋を収縮させるので、血管は収縮しそうなものです。実のところ、血管標本を取り出してアセチルコリンをふりかけて反応を見るとき、うっかり血管内腔面の内皮細胞にダメージを与えると、血管は拡張せず、収縮してしまうのです。内皮細胞にあるムスカリン受容体が一酸化窒素を産生し、これが平滑筋を弛緩させることがわかりました(1998年のノーベル賞)。なお、実は血管拡張線維は一酸化窒素も同時に放出しており、直接平滑筋を弛緩させる作用もあります。(ニトログリセリンバイアグラの作用も一酸化窒素と関係しています)

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【総論・神経組織】髄鞘を作る細胞について

名称についてですが、オリゴデンドロサイト=シュワン細胞の細胞質=髄鞘 という理解は正しいでしょうか?

という質問がありました。

髄鞘を形成する細胞は中枢神経系と末梢神経系で異なります。
中枢神経系で髄鞘を作る細胞はオリゴデンドロサイト。末梢神経系髄鞘を作る細胞はシュワン細胞です。
なお、シュワン細胞は髄鞘を作らず、単に軸索の周りを覆うこともあり、中枢神経系でいうところのアストロサイトのような(軸索を栄養する)機能もあると考えられます。