富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【各論・女性生殖器系】なぜ卵管と卵巣は直接つながっていないのか

卵巣から腹腔内に放出された卵子を卵管が回収するということでしたが、卵巣と卵管が直接つながっていないことに意味はあるのですか。また、腹膜腔が外に交通しているという構造は危ない気がするのですが、この構造によって起こりやすい病気はあるのですか。

という質問がありました。

おっしゃるとおり、いかにも不合理に見える構造です。この構造のせいで、子宮外妊娠という困った事態が生じてしまうことがあります。
ではなぜこのようなことになっているのでしょうか?それは発生学と進化からひも解くことができます。
発生学で習いますが、性腺は中胚葉由来で後腹壁にできる構造です(精巣のばあい、2次的に下降します)。そして、雄の場合は発生期の腎臓(中腎)と関係する管である中腎管が精管となり、雌の場合は後腹壁が折りたたまれてできる管である中腎傍管が卵管となります。後腹壁に由来するものなので、卵巣との間に間隙が生じます。
これらの構造、特に中腎傍管はいかにもとってつけたような構造に見えます。実際そうなのです。原始的な脊椎動物であるヤツメウナギ(ウナギではありません)では、これら精管や卵管は存在せず、繁殖期の雌雄の腹腔内は精子卵子で満たされます。そして、繁殖のタイミングで腹壁に小さな穴が開いて、精子卵子が体外に放出され、受精が起こります。これは衛生面でいかにもまずそうな気がします。実際のところヤツメウナギにおいて受精は人生の最後のイベントなのでそれでよいのでしょう。だが、この不都合を解決すべく、新たな構造が進化することになり、それが精管と卵管なわけです。
ではなんで精管と卵管が違うメカニズムでできるのか、精管のシステムのほうがいけているではないか、という意見ももっともです。これは精子形成メカニズムが管腔に沿って起こるため、連続した管腔構造が作りやすいのに対し、卵子形成メカニズムは管腔と無関係であるため、連続した管腔構造との相性が悪いことがその理由なのではないかと考えます。