富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama

音を認知する神経回路の構造を研究しています。 We study the neuronal circuitry for sensing sounds.

【各論・消化器系(1)】赤唇領域に関して

「赤唇領域は血管を含んだ結合組織で支えられた重層扁平上皮で覆われており,そのためこの領域は赤色を呈する (Abraham L. Kierszenbaum, Laura L. Tres. 組織細胞生物学. 内山安男訳. 第5版, エルゼビア・ジャパン, 2022,773p.)」 口唇が赤い動物はヒトだけだと思うのですが,それ以外の動物は赤唇領域は血管を含んでいない (または乏しい) ということなのでしょうか.また,なぜヒトだけが赤唇領域に血管を含んでいるのか,その進化の過程が気になりました.

という質問がありました。

まず、口唇が赤い、というのがなぜ起こるかというと、この領域の毛の密度が低い、ということ、皮膚が薄い、ということ、皮下の血管網が密であること、口唇がめくれ上がっていること、という4点に起因しています。確かに犬やキリンの顔を見ても、これらの特徴は当てはまらないですね。 一方、霊長類はこれらの特徴を持っている動物が多いことに気づきます。 histology>not_in_use>h0030-26 はマカクザル(ニホンザルと近縁)の口唇のHE染色ですが、ヒトの口唇と極めて類似していることがわかります。ニホンザルの写真を検索してみるとわかるように、顔面の毛は乏しく、顔は赤いです。もっとも口唇はそれほどめくり上がっていません。マントヒヒのように非常に派手な顔を持っているサルもいますね。また、チンパンジーでは口唇がめくれ上がっています。 古典的な人類進化の学説では、これは性選択によるものであると説明されています。 サルは基本的に顔面と尻の体毛に乏しく、このあたりの皮下の血流もおおく、赤いのです。これが性的な魅力を作っているという説です。サルのメスは極めて小陰唇・大陰唇が発達しているのですが、会陰の状態が交尾可能性を示していて、顔面がそれをイミテーションしているというのです。古い本ですが、デズモンド・モリスの「裸のサル」では、ヒトは直立して会陰がよく見えなくなったので尻のイミテーションとして乳房が発達し、大陰唇のイミテーションとして口唇がめくれ上がったのである、という説を提唱しています。